スコットランドのボートリフト

▼ファルカーク・ホイール(2013年9月撮影)

18世紀後半以降の産業革命に伴い、英国では大量の石炭等資源の輸送が必要になりました。これら重量物の輸送は、鉄道の発明・普及以前はもっぱら水運が担い、沿岸海運や河川・湖沼水運に加えて多くの運河が掘削され、運河の総延長は最盛期には6千km以上に達しました。しかし、19世紀後半に鉄道が普及してからは、運河は基幹的輸送手段としての役割を終えました。もっとも、観光用途での使用は残り、英国独特のナローボートで運河をゆるゆると旅するのは現在でも人気のレジャーです(ジェローム・K・ジェロームのユーモア小説『ボートの三人男』丸谷才一訳、中央公論新社、に英国の運河旅行の模様がたのしく描かれています)。このため、1960年代より運河の再整備が進められ、現在でも3千km以上が航行可能となっています。

わが国にくらべて平坦な英国ですが、それでも起伏はあり、ときには運河も山越えを強いられました。このため、かつては多くの閘門(lock)が作られましたが、閘門を連続させて高度を稼ぐのは時間も手間もかかります。そこで、閘門よりも効率的に一気に高度を取る手段として、船舶を浮かべた水槽ごと上下させるボートリフト(エレベーター)が工夫されました。

時を経て2002年、スコットランド、グラスゴー近郊のファルカーク(Falkirk)に新しいボートリフト、ファルカーク・ホイール(Falkirk Wheel)が整備されました。ファルカーク・ホイールは、単純な上下動ではなく、世界で唯一の回転式ボートリフトで、180度の位相で設置された2つの水槽が観覧車よろしく円弧を描いて回転します。現地ではボートツアーがあり、誰でも簡単に「船の観覧車」体験ができます。世の中にはいろいろな交通施設があるものです。

船舶を上下させる動力費は、2つの水槽の重量がバランスしているのでごく小さい(1回あたり家庭用電気ケトル8個分だそうです)ですが、資本費や回転部分の維持費などが気になります。もっとも、ファルカーク・ホイール自体が地域の大きな観光資源になっていることは確かなようです。(2014年5月)


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